INTERVIEW
インタビュー
みんなが認め合える社会を目指して起業
障害者と作り上げる裂き織り商品
株式会社 幸呼来Japan
代表取締役 石頭悦さん(58)
山形県酒田市出身
経歴
- 2000年
- 盛岡市内の住宅リフォーム会社に入社
- 2010年7月
- 会社の一部門として裂き織り事業を開始
- 2011年9月
- 幸呼来Japanを立ち上げる
- 2024年1月
- 新会社Saccora Share Globalを立ち上げる
EPISODE
裂き織りと出会い 障害者の技術に感銘
起業をするきっかけを教えてください
私は盛岡市内の住宅リフォーム会社で、バリアフリーを専門に担当していました。2009年に特別支援学校へ勉強会で伺ったときに裂き織りと出会いました。その美しさとともに、障害のある方の素晴らしい技術力に魅了されたんです。裂き織りを地域からなくしたくない、障害がある方たちの力をたくさんの人に知ってもらい、差別や偏見がない世の中にしていきたいと思って、勤めていた会社の部門として2010年7月に裂き織り事業を開始しました。
東日本大震災があって、会社として裂き織り事業部を継続できなくなりました。障害のある方2人とパートさんと私の計4人の事業部でしたが、「事業部が閉鎖になるから来なくていい」と言うことはできませんでした。会社を退職して事業部を引き継ぐ形で独立することを決めて、2011年9月に幸呼来Japanを立ち上げました。
現在行っている事業内容を教えてください
幸呼来Japanとして障害福祉サービス事業の就労継続支援B型事業所を運営していて、その中の訓練の一環として裂き織りを行っています。現在14人が事業所の利用者として登録していて、パートを含む職員9人を合わせると、会社全体としては23人体制で事業をしています。
着古したさんさ踊りの浴衣を活用して小物雑貨を作っている「さんさ裂き織り工房」と「SACCORA」の2つの自社ブランドがあります。企業から預かった材料を裂き織りの生地としてお返しし、その生地を使って企業が商品化をする「さっこらプロジェクト」という取り組みもあります。
今年1月には新しくSaccora Share Global(さっこらシェアグローバル)という会社を立ち上げました。幸呼来Japanでは、今までいろいろな企業からお願いされる仕事もたくさんありましたが、障害のある方たちの支援と企業とのやり取りを職員が行わなければならないこともあって、業務負担がかなりなものになっておりました。この会社が企業と幸呼来Japanとの窓口になり業務分担するほか、障害のある方が裂き織りを教えるワークショップの開催などの交流事業も行っていきます。
EPISODE
起業を後押した言葉 「失敗したら謝ればいい」
起業にあたってどんな準備をされましたか
会社から事業を引き継ぐときに、盛岡市の受託事業を継続できるのかについて市と話し合いました。法人化をするのであれば、委託先変更の手続きができるということでした。受託事業はその後3年間続き、委託料をいただきながら運営することができました。
会社の立ち上げから約半年後には、設備投資や運転資金として金融機関から借り入れも行いました。震災後につながりができていた中小機構から補助金に関する情報もお聞きし、2014年度にはいわて希望応援ファンド、2015年度には小規模事業者持続化補助金、2019年度にはIT導入補助金をいただくことができました。
起業をする上で迷いや不安はありましたか
私は会社に勤めていた時から取引金融機関が開催する起業家塾のような勉強会にも参加していました。勉強会には社会課題を解決したい人や自分の会社の第2創業をしたいという人が集まっていました。その勉強会で、起業家支援などを行う盛岡市産業支援センターの情報も聞いていたので、起業にあたって相談をすることにしました。
この先どうなるか分からないという不安と、会社を設立したら絶対につぶしていけないという重い責任感がありました。そんなときにセンターの担当者から「失敗したら謝ればいいんだから、まずはやってみなさい」と言葉を掛けられ、すごく気持ちが楽になりました。
EPISODE
一人ひとりが役割認識 みんなで作る輝く商品
ご自身が事業を行う上で大切にしていることを教えてください
うちは分業制なので、一人が1から10まですべてを作る作業ではありません。布を裂く、織り機で織り込む、余分な糸を取るといったように、それぞれが次に渡された人がやりやすいように考えながら作業をしてもらうようにしています。
「一人ひとりがきちんと仕事をしているから輝く商品になるんだよ。一人でもいい加減な気持ちでやっているとそれが商品に表れて輝かなくなるから誰も買わなくなるんだよ」。そんな話を常々していますね。みんなプライドを持って仕事をしていますし、自分が任されている仕事がすごく大切な役割だと気付いたときに、一人ひとりが職人の顔になるんです。
人材を雇うときに重視することはどんなことですか
職員を雇う時は、理念への共感を重要視しています。実は、最初は私が思いを伝えるのが弱かった部分もあり、職員が辞めてしまった経験があるんです。私は障害があるからこれはできないではなく、できるようにするにはどうしたらいいかを一緒に考えながらやっていける人でなければと考えています。だから今は、自分自身が熱く思いを語り、それに共感できる方に来てもらうようにしています。
EPISODE
差別や偏見のない社会へ 作り手との交流の機会増やす
今後の事業の展望について教えてください
私が事業をしている根底には、裂き織りを通して差別や偏見のないみんなが認め合える社会にしたいという思いがあります。今までは裂き織りを商品としてお客様に届けることで、障害のある方が持っているすごい力を伝えてきました。今後は障害のある方が裂き織りを教えるワークショップなど、交流ができる事業をさらに増やしていきたいと思っています。
さんさ裂き織り工房とSACCORAのブランドをより多く発信していくことにも力を入れたいです。岩手の人が県外に行く時のお土産として、県外から来た人が買って帰る岩手のお土産として定着するように商品を充実させていきたいです。
EPISODE
多様な意見を聞き視野を広げる 決してあきらめない心
起業を目指している人にアドバイスをいただけますか
自分の中のアイデアだけでは、どうしても視野が狭くなってしまいます。いろいろな人に会って意見を聞くことが大切だと思います。そして、自分の考えとは違っても、こういう考え方もあるんだといったん受け止めて、じゃあ自分ならどうするかという考え方をしてほしいですね。
中には、「そんなことをやっても無理、できるわけがない」と反対する人も絶対にいます。無理と思っているのは、あくまでもその人の価値観であり、世の中のすべての人がそういう価値観ではありません。絶対に共感してくれる人はいるので、あきらめないでほしいです。そして、起業をして終わりではなく、継続することが大切なことです。
会社情報
- 会社名
- 株式会社 幸呼来Japan (さっこらじゃぱん)
- 設立
- 2011年9月15日
- 代表者
- 代表取締役 石頭 悦
- 所在地
- 〒020-0126 岩手県盛岡市安倍館町19-41
- 企業ホームページURL
- https://saccora-japan.com/