スタートアップいわて

INTERVIEW

インタビュー

屋外特化の領域に可能性を見出し起業
ニーズをとらえた水上ドローン開発

古澤洋将

炎重工株式会社
代表取締役 古澤洋将さん(41)

岩手県滝沢市出身

経歴

2007年
筑波大大学院を修了し、CYBERDYNE(サイバーダイン)株式会社に入社
2013年
サイバーダインを退社し、シャープ株式会社へ入社
2015年
総務省の異能vationに採択
2016年2月
炎重工株式会社を設立 代表取締役
2017年
三菱UFJ銀行CEO人材育成プログラムの第1期生
2018年
事業を本格的にスタート

EPISODE

東日本大震災が転機に 多くの経験を積み起業へ

炎重工株式会社を起業するきっかけを教えてください

 実は、大学在学中に医療機器を作るメディカルインターフェース株式会社の立ち上げに誘われて取締役CTOをしていました。この会社はCYBERDYNE(サイバーダイン)株式会社と同じ筑波大学の山海(サイバニクス)研究室から生まれた会社でしたが、大学院を修了するタイミングでロボットスーツを開発するサイバーダインに吸収されましたので、そのままサイバーダインに就職しました。このとき、上場を経験できたことは、大変有意義だったと思います。
 大きな転機となったのは、2011年の東日本大震災です。震災から3日後に現場に入りました。被災した叔父や叔母を手伝う中で、被災の状況を目の当たりにし、そこからの復興を志して会社を設立しようと思いました。
 サイバーダインを退社したのは2013年。その後、起業の準備に入りました。その時点で事業領域は何も絞っていなくて、最初に決めたのは東北や岩手でやった時に勝てる領域は何かという基本戦略を考えていました。その後に自分の得意なことなどで領域を絞っていきました。

起業までのプロセスを教えてください

 ずっとベンチャー企業にいたので、サイバーダインを退社後、一度は大企業を経験しなければという思いもあり、シャープに入社しました。当時、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収される直前の時期で、どんなことが起きるか見てみたい気持ちもありました。1年半くらいでしたが、ロボット事業部の立ち上げなど貴重な経験ができました。
 2015年には、高信頼性組み込みOSのテーマで、総務省の補助金「異能vation」に採択されました。補助金が通った後、ベンチャー支援のプログラムを探して三菱UFJ銀行CEO人材育成プログラムの第1期生となりました。金融機関の収益構造や経費のかかり方を知れたことが大きかったです。
 このプログラムに参画する直前の2016年に炎重工株式会社を設立しました。

EPISODE

水上ドローンの開発を軸に 研究や受託にも取り組む

現在の事業内容を教えてください

 製品開発と研究開発、受託開発の大きく三つの区分があります。製品開発では、すでに確立した技術を用いてロボットに関する製品開発をしていて、その一つが水上ドローンです。水上ドローンは、いわゆる、ロボット化された船舶のことを指しますが、一般的には20トン未満の小型船舶を対象としています。
 そしてこの水上ドローンはさまざまな用途に使用することが可能で、海や湖、河川などの自然水域及びダムや水路などの人工水域を対象としています。橋梁などのインフラ点検、水難救助、藻場測量や海底調査、水上ゴミ清掃、水路内点検、水上輸送、水辺活用、大型船の入港検査などさまざまなシーンでの活用が期待されています。
 研究開発では、特に生物の誘導に関する制御に取り組み、技術の確立を目指して活動を行っています。これは水の中に微弱な電気を流し、魚がそれを感じることで電気のあるエリアから離れる習性を利用します。最近だと出荷用に適量だけ魚を移動させるという需要があります。電気だけでなく光学や音響的な手法を用いて、鳥獣類の誘導に関する研究も行っています。
 受託開発では、お客様からの要望を受けて様々な製品を開発しています。基本的には、水上ドローンなど屋外向けシステムに資するものが多いですが、空飛ぶドローンや工場の中で動くAGV(無人搬送車)も作ります。難しい案件や経験したことがない案件を喜んでやる変わった会社です。
 この三つでバランスを取ってやってきましたが、最近は水上ドローンの市場が立ち上がってきたと判断して、水上ドローンに注力しています。

EPISODE

CFOの重要性 製品の質向上に欠かせぬ経験

起業をする上で不安や迷いはありましたか

 不安はありましたが、友達や大学の先生も会社を作っていて、話を聞くことができました。売り上げが安定する前に必要となる資金、事業領域を屋外に特化することについて相談しました。事業領域については仕事がなくなることはないという反応で「君なら何とかなるよ。早くやりなよ」と言われました。

起業の際にどのタイミングでどれくらいの資本金を投入しましたか

 創業時の資本金500万円は自己資金で入れています。結局あまり使わずに、もう一度増資をしています。三菱UFJ銀行の本店に口座を作れるという話があったタイミングで2500万円の自己資金を入れました。大企業と取引の際などにメガバンクの本店口座を持っていると大きなアドバンテージになるからです。
 総務省の補助金を得る時にベンチャーキャピタルからの出資が条件としてあり、そこで初めていわぎん事業創造キャピタルさんにご出資頂きました。

どのような観点で人材を確保しましたか

 会社設立の時に、2010年代はいろいろとやる期間と設定し、2020年代にどれかに絞り込んで伸ばすと考えていました。そのため、2010年代は開発や管理側を中心に人材を確保しました。お金廻りや財務経理など、CFO(最高財務責任者)の重要性はサイバーダイン時代に認識していたので、CFOの萩野谷には早い段階で入ってもらっています。
 コロナで少しずれましたが、2020年代は水上ドローンに対応できる人を中心に採用しています。現在は、アルバイト、社員で約30人、そのうち開発者は10人以上います。

事業を行う上でのこだわりを教えてください

 なるべく経験をしてみることにしています。屋外向け製品を作る時には、イレギュラーなことをどれだけ知っているかが製品クオリティーにつながるからです。輸送も含めて試験なので、最初はリスクもありますが、トラックも自分たちでチャーターしてクレーンで吊り上げたりもしました。現場を経験した人には当たり前ですが、机の前にいたのではなかなか気づかないことが多いと実感しました。

EPISODE

需要を見据え生産拡大へ 人の雇用で復興に貢献

今後の事業の展望を教えてください

 小さくて一人で運べて使える水上ドローンにすごく需要があることが分かったのが、ここ1、2年。それはほぼ確信となっていて、今後は安く大量に作って売ることです。直近では、100台くらいを目標にしています。より多くの商社や販売代理店を開拓し、その次は1千台くらいを目指しています。
 石油プラントや警備など、海外でも水上ドローンのニーズは高いです。国ごとに法律が違いますが、市場の開拓も既に始めていて海外の展示会には年1回以上出ることを目標にしています。昨年はサウジアラビアとオーストラリアの展示会に行きました。
 震災復興でいうと、製造業なので人の雇用で貢献できると思っています。国内の水上ドローン生産の7割くらいを岩手で造りたいです。うちの会社が全部の領域で売る必要はなく、製造受託も含めて年間数万隻の水上ドローンを造れば雇用も生まれると思うし、物流も盛んになります。

EPISODE

経営の安定化へ 三つの事業の柱が大切

起業を目指している人にアドバイスをいただけますか

 昔、先輩に事業の柱を三つ持つことが大切だと言われました。三つを少し分散させて持っていると、一つが駄目になっても経営が安定します。一つにいきなり絞り込んで成長させるよりは、三つをある程度バランスよくやることです。うちでいうと製品開発、研究開発、受託開発。ネットで調べると最近はベンチャー、ベンチャーと言ってリスクを取りすぎている人も多いと感じます。自分の生活が安定してからリスクを取った方がいいと思います。

水上ドローン製品情報ページ
水上ドローン製品動画(YouTubeチャンネル)

会社情報

会社名
炎重工株式会社
設立
2016年2月25日
代表者
代表取締役 古澤 洋将
所在地
〒020-0633 岩手県滝沢市穴口57-9
企業ホームページURL
https://www.hmrc.co.jp/