INTERVIEW
インタビュー
南部鉄器の可能性に魅せられ起業
個性的な音色のエフェクターを製造販売
合同会社福嶋圭次郎
代表 福嶋圭次郎さん(37)
神奈川県横浜市出身
経歴
- 2019年4月
- 岩手県で南部鉄器の工房を訪ねる
- 2019年7月
- 岩手県奥州市へ移住
株式会社及富とエフェクターの共同開発を開始 - 2019年11月
- 合同会社福嶋圭次郎を立ち上げる
EPISODE
南部鉄器エフェクターを販売 機材への興味が起業へ
現在行っている事業内容を教えてください
現在、楽器を扱う会社を行っています。総称して楽器と言っているのですが、特にエフェクターと言われるエレキギターやエレキベースの音色を電気的に変化させる装置の製造販売をしています。特徴は、岩手県の伝統工芸品である南部鉄器を用いたエフェクターを製造販売していることです。
音楽や機材へ興味を持たれた経緯と、それがどう起業につながっていきましたか
楽器に興味を持ったのは、中学校の文化祭で出し物の一つとして演奏をする機会があったのがきっかけです。最初は演奏だけでしたが、高校生くらいになり、エフェクターというものを知り、それによって音色が変わることが面白く、演奏から機材への興味に変わっていきました。専門誌でエフェクターを製作する記事を見て、実際に自分で製作してみると時間を忘れるくらい楽しかったです。その楽しさから東京電機大学に進学し、楽器作りの知識を深めていきました。
大学卒業後はアルバイトで楽器店に勤め、その後、実家の米屋に入りましたが、エフェクター作りは趣味で続けていました。30歳を過ぎ、時代の流れで米屋を縮小するという話になりました。そのことをきっかけに、自分がずっとやってきた楽器の製造販売で一旗揚げてみたいと思いました。
EPISODE
南部鉄器に興味 広がった音の可能性
岩手県を起業の場に選んだ理由を教えてください
エフェクターは、中の電子回路が大きく音色を変える構造になっていますが、それ以外にも様々な要素で音色が変わります。筐体とよばれる金属製の箱によっても音色が変わることに気付き、個性的な音を作れないかと探る中、テレビで見た南部鉄器に「これは面白そうだ」と興味を覚えました。
2019年4月、岩手県へ来て、盛岡の手づくり村などで南部鉄器の工場を回りました。休日だったこともあって見学だけでしたが、水沢にも工場があることを知りました。及富さんを訪ねると、ちょうど吹きと呼ばれる鋳造を行っていて、作業を見させてもらうことができたんです。初めて溶けた鉄が型に流し込まれる様子を見て、すごく興奮したのを覚えています。
案内をしてくれたのが年代も近く、音楽のことも分かる人だったこともあり「僕、エフェクターを作っているんです」と話をすると「何か、南部鉄器でやってみましょうか」と、思いもよらないお誘いを受けました。
2019年7月には、岩手に移住しました。人生で一度は起業をしてみたいと思っていたこともあり、その年の11月に法人を立ち上げました。正直言うと、会社にする意味はその時はあまり分かっておらず、何となく会社を作ってみたいなという感じでした。
EPISODE
手探り状態からの挑戦 先輩経営者が大きな刺激に
起業にあたってどのような準備をされましたか
金融機関から300万円を借り、それを会社の資金としてほとんど自己資金なしの状態で会社を立ち上げました。南部鉄器でエフェクターを作りたい、販売するところまで成し遂げたいという思いがありましたし、販売時期も翌年1月と自分の中で決めていました。半年くらいしか時間がなく、何も分からない状態から鋳物のことに向き合い、一つの製品を作り、かつ会社を立ち上げて動かせるようにすることをやらなければなりませんでした。
起業の際に感じた不安や迷いを教えてください
自分の周りには起業をしている人がいないこともあり、自分が進んでいる道が正しいのか聞けない状況という不安はありました。金銭面でも、こんなことにもお金が掛かるのかという思いもよらぬ出費が出てきました。自己資金も底をつきそうになる中、文字通り藁にもすがる思いで、最低限のビジネス書を読みました。でも、本を読むだけでは分からない部分はたくさんありました。きちんと商品ができ、売れていくのかという不安もあり、起業したてのころはすべてが不安でしたね。
岩手イノベーションベースとの出会いについて教えてください
起業から1年後、金融機関から起業支援の団体が立ち上がると聞きました。そういうコミュニティーに属することは、それまで経験がありませんでしたが、思い切って入りました。それが岩手イノベーションベース(IIB)との出会いです。
IIBは、起業家が集まり、お互いが経験をシェアして成長していこうという団体です。待っていれば何かが得られるグループではないのですが、何か自分が聞きたいことや不安があるときに聞ける相手が周りにいる状況はすごく心強かったです。起業したてで右も左も分からない状況の中、経営者や規模の大きな会社の人がメンバーにいたので、そういう人たちに追い付こうと大いに刺激を受けることになりました。
EPISODE
プレゼン大会優勝が自信に さらなる海外展開目指す
起業からこれまでで印象に残っている成功体験を教えてください
東北6県で行われるNExT10(ネクスト10)というピッチ大会に出場し、岩手大会、東北大会で優勝させてもらったことはとても大きな成功経験の一つです。ピッチとは、自分の事業や持っているビジョンを短時間でプレゼンテーションする場です。
優勝した盛り上がりを生かそうと南部鉄器エフェクターを作ってから初めてアメリカに出張するためのクラウドファンディングを2020年9月に実施し、成功させました。このアメリカ出張をきっかけに、現在アメリカで販売会社を立ち上げてくれている友人との親睦が深まり、海外での事業展開の広がり、今年参加した海外展示会にもつながっていきました。
今後の事業の展望について教えてください
より海外展開を強めていきたいと思っています。昨年度は、売り上げの3分の1弱がアメリカでの売り上げでした。アメリカのみならず他の国でも出していきたいですし、それだけ増やせる商品力はあると思っています。
現在、エフェクターを主として商売していますが、岩手県に来て岩谷堂箪笥という伝統工芸品を見た時から、この技術を使ったギターアンプを作ってみたいという思いがありました。すでに展示会で試作品を展示していますが、今後はアンプなども販売してより事業を進めていきたいです。
EPISODE
起業の判断へ障壁を明らかに 動かなければ成功はない
起業を目指している人にアドバイスをいただけますか
絶対に失敗できない、成功しなければと思い、行動できなくなってしまいますが、思ったことはまずはやってみることです。何がハードルになっているかを明らかにし、自分はこういう生活がしたいと考えるとそのために必要なお金がいくらか分かります。そこで起業をするべきか、しない方がいいのか判断すればいいんです。それでも起業をしたい思いがあるなら、なるべく早く挑戦すべきです。動かないと失敗もないけれど成功もありません。
起業家が自分たちのために情報を提供し合い、成長するために集まっている組織としてIIBもあります。ぜひとも、成長したいと渇望している人、起業で悩みを抱えている人は来てもらいたいです。
会社情報
- 会社名
- 合同会社福嶋圭次郎
- 設立
- 2019年11月5日
- 代表者
- 代表社員 福嶋 圭次郎
- 所在地
- 〒023-0102 岩手県奥州市水沢羽田町駅東1-80 エコーハイツ A-205号室
- 企業ホームページURL
- https://kgrharmony.com/