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座談会テーマ

「地域課題の解決を事業化し、成長を目指す女性起業家」

起業を志す者や起業家へ情報発信する目的で、県内で活動する起業家の取り組みや起業に対する思いなどを紹介する座談会形式のインタビューを実施しました。「地域課題の解決を事業化し、成長を目指す女性起業家」をテーマに、女性起業家3人にお話をお聞きしました。

実施日時・場所

2026年1月20日 盛岡市産業支援センター

参加者

参加者

  • 株式会社盛岡書房 高舘美保子代表取締役
  • 株式会社クラシカウンシル 水野ひろ子代表取締役
  • 株式会社hachihachi 小池泰子代表取締役

司会

ミライドアTohoku株式会社(「もりおかSDGsファンド」など地域ファンドを運営するベンチャーキャピタル) 小川淳代表取締役社長

地域課題の解決を事業化し、成長を目指す女性起業家

起業をした時期と現在の事業内容についてご紹介をお願いいたします。

高舘

盛岡書房は2021年2月に設立しました。本を軸とした地域循環型プロジェクト『象と花』を運営しています。このプロジェクトは、本の循環が起点となり、循環を動かしている障害のある方の就労支援、循環の先にある困難を抱える子どもたちへ本を贈る支援です。

新本は書店や出版社との連携を通じて販売・提供し、古本は地域や企業から回収して状態の良いものは古書として再流通、再流通が難しい本もトイレットペーパーなどへ再資源化を行います。就労継続支援B型事業として、障害のある方が本のクリーニング、チェック、出品、発送などを行い、その業務を通して働く力を育み、社会とつながる機会を生み出しています。また、本の循環の中で得られた収益を活用し、病院の小児病棟や子ども関連施設へ新しい絵本や児童書を届けています。

 株式会社盛岡書房 高舘美保子代表取締役

水野

株式会社クラシカウンシルは、合同会社として2020年12月に設立しました。その後、もりおかSDGsファンドの投資をいただく形で株式会社に組織変更し、現在に至ります。会社を設立した2人は、『てくり』という地域誌発行メンバーの一人でもあり、工芸に関わる方などと接する機会が増える中で、工芸に関してもう少し立体的に事業展開していきたいという思いから立ち上げました。

事業内容は、「伝統工芸の産業振興及び普及、技術伝承・工芸品の開発製造、地場産品等の販売事業」を主に、教室運営やイベント企画などを行っています。メインになるのは、手紡ぎ手織りの学校『Looms』の運営、ホームスパン販売会の開催、出張イベントです。立ち上げて4年目となる教室は、通われる方が延べ380人ほどになります。2026年で5回目を迎える工芸イベント『北のクラフトフェア』の事務局などもしています。

小池

2022年1月に盛岡市仙北町で『Lamp88hair(ランプハチハチヘアー)』というお店をオープンしました。髪に悩みを持つ方にも通っていただける美容室として、「ボーダレスビューティー」「美容の力で明るく暮らせる明日を」をコンセプトに運営しています。店の特徴でもある医療美容師が、病気やけが、抗がん剤による脱毛で悩む方を「美容」というホスピタリティーによって、スムーズな社会生活を送れるようサポートをします。

抗がん剤治療の方や脱毛症の方などウィッグを使用される方は幅広くいます。きれいになることや美容師とお話をすることは多くの人たちの楽しみの一つなので、髪があってもなくてもいつも通りに通えるお店、そんな美容室を目指しています。完全予約制で、医療美容師が1対1で対応するため、家族や職場の人にも言えないけれど、ここならば相談できるという方もいます。

どのような地域課題の解決を図りたいと考え、起業をしたのかお聞かせください。また、起業という手段を選択された理由も教えてください。

高舘

障害のある方の就労支援をするNPOを22年間やっていました。その中で障害がある方を含めて、働きたい気持ちがあるのにどうしても選択肢が少ないなという違和感があったことがスタートです。同時に本離れや書店が減ったこともすごく寂しいという思いがあり、二つの課題を同時に解決できないかなということで、本屋×就労支援という形での起業をやってみようと思いました。また、支援となるとどうしても事業性が低くなり、継続が難しいという課題にぶつかっていたところもあり、株式会社という形に変更して持続できる形にしていきたいということで起業しました。

小川

NPOの経験もすごく重要だったと思いますが、株式会社にしたことによるメリットを教えてください。

高舘

私見になりますが、NPOの経験と株式会社の経験で大きく違ったところは、NPOは社会課題の解決に挑戦しても当たり前のような感じがあり、他の企業との関わりは少なかったです。株式会社に変更した後は、企業や地域の人たちとの関わりが見違えるように増えました。企業との接点が増えたことで、障害のある方を雇用したいという声が拾えるようになってきたということもあります。NPOが悪いということではなく、弊社の形態は株式会社の方が合っていたのではないかと思っています。

水野

私自身はフリーの編集や本づくりをしている中で、工芸関係の方とのつながりが深まっていきました。盛岡市中央公園の『Park PFI』事業の一環で、工芸の体験施設としての入居を打診され、ホームスパンの教室を運営するためにはどうしたらいいかということで会社を立ち上げたのがきっかけです。ホームスパンは50代、60代、70代の方々が使い手の中心ですが、作り手も高齢化しており、裾野が広がらないと立ち消えになっていくのが目に見えていたため何とか仕組みとしてやっていける方法はないかを考えました。

会社として提案する暮らしの姿は、ものづくりの先にある生活者自身がデザインする暮らしの楽しさ、それが生きる本質の部分にあるのではないかと考えています。AI技術なども普及して置き換えられていくものもありますが、やはり作る喜びや作ったものを使って楽しむ喜びは、人間の本質としてなくならないだろうと思っています。素材になるものが生活の周辺に多くある恵まれた環境の中で素材を生かして生きるという本来の人間の知恵みたいなものが失われていくのは悲しく、失くしてはならないという使命感みたいなものがあってやっています。物がどうやってできてきているのかを知らない子どもたちも多く、知ったり、使ったり、作るという機会を創出する事業に取り組む必要性を感じたことも起業に至った理由です。

 株式会社クラシカウンシル 水野ひろ子代表取締役

小池

美容師として髪の毛のある人しか切っていなかったのですが、ある時にずっと担当していた方が髪の毛のない状態で来店しました。その時はウィッグをどう扱っていいか分からず、何とか切って帰っていただきましたが、そのことがずっと自分の中で引っかかっていました。ヘアドネーションをはじめ、髪に悩みを持つ人がたくさんいるということも段々と分かってきました。そんな時に、お客様から医療美容師のことを教えてもらいました。デリケートな問題で、大型店にウィッグを持って入るのはすごく勇気がいるため、当時働いているお店でやるのは少し難しいかなとも思いました。そのようなことが重なり、起業するタイミングで、医療美容師をやろうと考えたのがきっかけの一つでした。

今では「ウィッグがなかったら仕事をやめていたんですよ」という声などもいただきます。髪がなくなったことで、今まで自信があった仕事に少し引け目を感じたり、消極的になって落ち込んでしまったりしていた人が、ウィッグによって元の髪に近い状態になることで頑張れることもあります。自信を取り戻して社会にまた飛び込み仕事をするお手伝いができる、見た目の問題で塞ぎ込むことがないよう美容の力でサポートできる、そんな美容室を作りたいと思い起業しました。

 株式会社hachihachi 小池泰子代表取締役

小川

やられている事業がどれだけ多くの人に貢献しているかを伝える機会は少ないと感じています。お金だけでなく、起業が多くの人の役に立つ、それによって自分のモチベーションも上がる、そういうことを起業された方自身がもっと発信していくべきです。売り上げの増加や雇用を増やしたということも一つの成功体験ではありますが、それよりも起業した人自身がやって良かったと思わなければ、起業した意味はないと思います。やってみて良かったというのは当然お金の面だけではなく、お客さんからそういう声をいただくことが一番大事だと感じます。

3人の共通点として、もりおかSDGsファンドの投資を受けたという点があります。同ファンドから投資を受けた経緯や実際に投資を受けて感じたメリットなどがありましたらお聞かせください。

高舘

事業の社会性だけでなく、継続性や成長性を共に考えてくれる存在を探す中で、もりおかSDGsファンドと出会いました。自分が中心でやっていたNPO時代は、自分の視点のみしかなかったので、どちらかというと勢いだけでやってきたところがありました。ファンドを活用したことで資金面の支援はもちろん、次の一手を考える時に、別の角度から見てもらい、立ち返って確かにそうだと気付かせてもらえたことがすごくメリットだったと思います。「想い」だけでなく「仕組み」に落とし込む力がついたと感じています。

水野

盛岡市からもりおかSDGsファンドの活用をアドバイスされ、相談に伺いました。フリーの個人事業者だったので、その段階では事業計画も漠然としていました。何度かお話しする機会を設けていただき、何を目指したいのか、数字にとらわれずに言語化することを優先していただいたことで、私たちの事業の方向性を具体化できたと思います。投資を受けた後も、2カ月に1度のミーティングが自社における進捗を確認する機会となっています。第三者の視点で、今、何を優先すべきかアドバイスいただいています。

小池

起業に関しては全く知識がなく、初めて相談に伺った時も、何を聞いたらいいか分からない状態でした。最初に投資というワードを聞いたときは、ファンドという考えが自分の中に全くなかったので、怖いと思ったことを覚えています。起業後は定期的にミライドア、盛岡信用金庫とのミーティングがあり、たくさんのアドバイスをいただきました。不明点や困難なことなどに多くのサポートをいただき、とても感謝しています。自分一人で起業していたならば、こうして運営し続けることもできなかったかもしれません。

小川

3人の話を伺って感じた点は、定期的なミーティングを非常に有意義に感じていらっしゃることです。経営的に必要な事柄について他者(ステークホルダー)のアドバイスを受ける機会があると思いますが、その時に一回受け止めて、なぜそれをやるのか、言われていることはどういう意味なのかと自分の頭でもう一度考えて、採用もしくは不採用を判断するのが望ましいです。企業は順調に成長している時ほど、自分の考えややり方が「絶対に正しい」となり、時には足元をすくわれる可能性があります。他者の意見に耳を傾け、受け止める勇気を持った上で最終判断することが大事だと思います。

 ミライドアTohoku株式会社 小川淳代表取締役社長

起業をして良かったと感じた瞬間を教えてください。

高舘

子どもたちに心の支援ということで本を贈っています。それ自体も喜びではありますが、思いに賛同して県内外からも本が送られてくるようになり、仲間が増えていっていることがうれしいです。障害のある方たちが仕事を通じて自信をつけ、「働くのが怖くなくなった」「自分にもできると思えた」と言ってもらえた時、そして就職という形で卒業していくのを見た時に、この事業を続けてきて良かったなと感じます。また、販売不可の本も賛同者の思いがこもっています。再資源化し、トイレットペーパーとして販売した収益からこどもホスピスに寄付することができていることも喜びです。

岩手医大附属病院の小児科病棟への新本の寄贈
古本販売に向けた本のクリーニング作業
古本の回収ボックス

水野

事業化と同時にスタートした手紡ぎ手織りの学校『Looms』は、まさに「知る、つかう、つくる」機会創出の基軸となる活動です。ホームスパンの展示販売会にも毎回1500人を超える方々が来ます。知ることで、ものづくりの背景に興味を持って使い、自らもつくる体験をすることで、より愛着を持って伝える人たちが増えていると感じます。毎年6月に開催するウールピクニックというイベントでは、羊毛を広げて販売をしたり、羊の毛刈りをやったりしています。公園という公共的な場所なので、イベント目的ではない方の偶発的な体感の現場にもなり、思わぬ反応をいただけることもうれしいです。

隔年で開催するホームスパンイベント
廃棄される岩手県産羊毛を活用したホームスパン製品
北のクラフトフェア

小池

起業して良かったと感じる瞬間は毎日です。その中でもやはり髪に悩みを持つお客様から「ウィッグをつけていなかったら仕事をやめていた」とか、「やっと私も通える美容室ができた」という声を多くいただけることがうれしいです。地元にウィッグを切ってもらえる美容室がないということで、県外から来店いただく方もいます。自分が事業をやったことで、仕事に復帰できたり、笑顔になる方が増えたり、そういうお手伝いが少しでもできていると実感できるのがこの仕事をしていて良かったと感じる時です。

女性が活躍できる地域づくりのためには、現在活動している女性起業家の取り組みを伝えることが重要と考えております。事業を進める上で、女性ならではの視点や工夫をしたことがありましたら教えてください。

高舘

日常で女性ならではということを考えたことはあまりありません。そのため、私自身がという視点になりますが、好奇心は旺盛ですが実際に動くとなるとあまり無理をしないような設計をしてしまうところです。また、人を中心に置くという判断をしているところも女性としての経験が生きている部分かもしれません。経営者としては孤独なこともありますが、職員と合意の上でいろいろなことを進めていこうというところはすごく意識しています。会社内だけでなく、地域や関わる人たちを仲間として一緒に巻き込み、一人で抱え込まず、たくさんの人に協力をいただきながらやっています。

水野

女性ならではということは特に意識していないです。もしかしたら女性の感覚が生きているのかもと思うのは、社会生活を重ねる中で女性の場合は、地域の人たちとの関わりだったり、子どもがいれば子ども会だったり、ビジネス社会の中とは違う関わりが多いことがあります。そんな多様性の中で、その時にできることへシフトチェンジするのは、割と女性の方が思考としてあるのかもしれないと思います。ビジネスをしていく上でも、長期よりも短いスパンで、変化に対してのフットワークの軽さや思考の切り替えの早さは女性の方があるのかなと思いながらやっています。

小池

美容室に行くということ自体が女性の楽しみの一つだと思います。そのため、病気で脱毛してしまった時に行く美容室に、ウィッグがずらっと並んでいるようにはしたくありませんでした。見るからに医療美容室という感じではなく、髪がある人も普通に通えるし、髪がなくても普通に入れる、誰もが平等に入れるお店の雰囲気を意識しています。苦労や悩みは体力的な部分です。もちろん仕事は好きですが、やり過ぎればパフォーマンスが下がります。自分にできないことは夫にお願いして助けてもらうことで、自分の仕事に専念できるようにしています。

ウィッグのカット作業の様子
医療美容師が対応する医療美容認定サロン

今後の事業について、具体的に動いていることに限らず、展望などがあれば教えてください。

高舘

善意に依存する活動ではなく、地域に根づき、続いていく事業として社会課題を解決する挑戦です。盛岡書房の実践は、「地域課題は事業として向き合うことで、より多くの人に届く形になる」ことを示す一例であり、女性起業家としてのリアルな挑戦でもあります。今後は、盛岡書房のモデルをさらに磨き、「地域に一つあるといい働く場」のパッケージとして横展開できる形を目指しています。

水野

ホームスパンの事業展開では、縫製会社とのコラボでジャケットを作ろうというお話があったり、服地を使って帽子を作ってみたいというお話をいただいたり、事業者とのつながりがこれから出てきそうです。『北のクラフトフェア』を通じて、作り手とのつながりもさらに深まってきているので、弊社の強みである県内作家とのネットワークをベースに、岩手の価値を伝えるキュレーション業務など、工芸全般を発信する機会づくりに取り組みたいと思います。

小池

脱毛症の方にもウィッグの助成金が出るように働き掛けたいと考えています。ウィッグの助成金は、現在はがん患者のみに出ていますが、脱毛症は病気なので、実はがん患者よりも長くウィッグを使うことがあります。ウィッグは消耗品なので、一度買えば永遠に使えるわけではなく、買い替えるとなると例えば人毛100%だと数十万円するものもあります。医療美容師として助成を働き掛ける活動ができればと思っています。 

最後に、これから起業を目指す方や準備中の方に、自らの経験を踏まえてアドバイスをいただけますでしょうか。

高舘

最初から完璧である必要はありません。「これはおかしい」「何とかしたい」という見過ごせない違和感を大切にし、一人で抱え込まず、周囲に頼りながら進めば、道は必ずひらけると思います。小さな違和感が、事業の原点になると思いますので、あきらめずにその想いは手放さないでほしいと思います。

水野

岩手、盛岡で起業するとなると、土地の中にある縁が非常に有効で、それをないがしろにできないということを本当に切実に感じています。様々なアイデアをくださったり、実働部隊として参加してくれたり、地域にはすごく優秀な方が点在しています。皆さんも今持っている縁を大事にしてほしいと思います。

小池

私は起業をするときに、ある方から「三方よし」という言葉を教えていただきました。それを常に自分の中で思っています。自分にも相手にも良いのは当然で、社会にも貢献できてこそ良い商売です。起業して、自分が仕事をすることで、誰かが幸せになることが想像できれば、きっと周りも力になってくれるのではと思っています。